建物に力が加わって揺れるとき、その揺れ方は建物に特定の「周期」で揺れます。建物の代わりにブランコで考えてみましょう。ブランコをこぐとき、行って帰ってくる(つまり一往復する)のにかかる時間のことを「周期」といいます。長い(高い)ブランコだとブーランブーラン揺れますから周期は長いですし、短いブランコですとキコキコ揺れて周期は短いです。ブランコを一生懸命こぐと大きく揺れて、一生懸命こがないとあまり揺れませんが、でも実は周期は変わらないのです。このような周期のことを「固有周期」といいます。ブランコの固有周期よりも長い周期や短い周期でこごうと思っても(つまり、早くこごうと思っても遅くこごうと思っても)、結局ブランコは固有周期で揺れてしまいます。
建物にも同様に揺れやすい周期、つまり固有周期があります。実験で使ったおもりをつけた棒は、倒立振り子と呼んでいます。短い倒立振り子は 2 〜 3 階建ての低層階の建物をイメージして下さい。中くらいの長さの倒立振り子は 7 〜 8 階建ての中層階の建物を、長い倒立振り子は高層ビルをイメージして下さい。一方、机においた板を揺する速さは、地震による地盤の揺れの速さを対応します。観察では、板を揺する速さによって倒立振り子の揺れ方が変化しましたよね。短い周期で(ユサユサ)板を揺すった場合は、短い倒立振り子が最もよく揺れました。板を揺する周期を長くすると(ユーッサユーッサ)、長い倒立振り子がよく揺れました。地盤の振動が短い周期の場合は低層建物が応答して揺れやすく、非常にゆっくりとした周期の振動には高層ビルが応答して揺れやすくなります。阪神大震災では、高層ビルの固有周期に対応するような長い周期の地震動成分がなかったため、高層ビルは比較的安全だったわけです。
一般に、活断層によって起こる直下型地震では地震動の周期は短く、海溝型地震では地震動の周期は長くなります。また、地盤の固さ軟らかさによって、伝えやすい震動の周期があって、固い地盤は短い周期の震動を伝えやすく、やわらかい地盤は長い周期の震動を伝えやすいという特性があります。関東大震災の時、固い洪積台地に建てられた蔵に多くの被害が出たのは、固い地盤が伝えやすかった短い周期の震動と、蔵の短い固有周期がちょうど一致して、蔵が揺れやすくなったためと考えられています。このように、地震による建物の被害には、建物自身がもっている揺れやすさの性質のほかに、地震の震動の性質や、建物の建っている地盤がどのような震動を伝えやすいかといった特性が影響することがわかります。下の写真は阪神淡路大震災での建物被害の例を示しています。この地震では高層ビルに被害はありませんでした。中規模以下のビルで大きな被害が出ました。